金子氏コラム、メキシコ対ブラジルについて

こんな記事が。メキシコがブラジル圧倒したのは別に初めてじゃないと思いますが、でも嬉しい。- ブラジルを“圧倒した”メキシコサッカー結実の時 ― スポニチ Sponichi Annex サッカー 【コラム】金子達仁 2014年 URL 10.19.44

 86年W杯、開催国メキシコは無敗で1次リーグを突破し、メキシコ中を熱狂させた。

 ただし、熱狂したのはメキシコ人だけだった。

 世界的に名が知られていたのはストライカーのウーゴ・サンチェスただ一人。絶対的に駒が足りなかったという面は確かにある。けれども、そうした面を差し引いても、彼らのサッカーは退屈だった。02年の日本が、10年の南アフリカがそうだったように、86年のメキシコにも、理想を追求する余裕はまだなかった。

 潮目が変わったのは、FIFAから国際大会への出場を禁止された90年あたりだったか。78年大会で母国アルゼンチンを初優勝に導いた智将メノッティを監督に迎え、メキシコのサッカーは劇的に変わった。

 簡単に言えば、つないで、つないで、つなぎまくる。群がって、群がって、群がりまくる。結果が求められる舞台から追放された痛恨の4年間は、世界で唯一、理想だけを追求することが許された4年間となった。

 あの時蒔(ま)かれた種が、この日、結実の時を迎えた。

 決定的な場面はブラジルの方が多かった。もっとも輝きを放ったのは、神がかり的なセーブを連発したGKオチョアだった。だが、この日のメキシコは勝ち点をかすめとることだけに腐心していたかつてのメキシコではなかった。彼らは結果だけでなく内容でもブラジルを圧倒しようとし、時間帯によってはそれに成功した。

 ブラジルに勝ったことのある国はあっても、ブラジルを圧倒しようとした国はほとんどない。まして、試合会場がブラジルともなれば、どんな強豪国であっても劣勢を前提に展開を考える。そんな中、ほんの数十年前まで退屈な中堅国でしかなかったメキシコが、アルゼンチンでさえほとんどやったことがないことをやってのけたのである。

 つくづく、ブレない理想を持つことの大切さを思う。

 サッカーには時の運という要素もある。どれほど素晴らしいサッカーを追求しても、なぜかうまくいかずに敗れることもある。メキシコとて、そうした神の気まぐれと無縁ではなかったはずだ。

 だが、ひとたびボール・ポゼッションを自分たちの生命線と決めた彼らは、94年も、98年も、02年も、06年も、10年も、常に誰が見てもメキシコだとわかるサッカーをやり続けてきた。

 確信が生まれた。

 過去、欧州と南米にしか抱擁を許さなかった黄金のカップは、いずれ、北中米の雄に抱かれる時が来る。そして、彼らの歩んでいく道は、間違いなく日本にとっても示唆に富んだものとなるはずだ。(金子達仁スポーツライター